パリの街角散歩です。カタツムリのようにゆっくりと迂回しながら、そして時間と空間をさまよいながら歩き回ります。


2015年10月25日日曜日

散歩R(7-2) タンギー爺さんの店跡 Emplacement de la boutique de Père Tanguy(9区サン=ジョルジュ地区)

☆クローゼル通り14番地 (14, rue Clauzel, 9e) 
《タンギー爺さんの店跡》 (Emplacement de la boutique de Père Tanguy)

(c) Google Map Streetview
 14, rue Clauzel, 9e

ここはタンギー爺さん(Père Tanguy)ことジュリアン・タンギー(Julien Tanguy, 1825-1894)が画材を売っていた店の跡である。現在は複製画の展示や記念品を売っているようだ。見ての通りの質素な店構えで、画像(←)の左手の門の上に銘板がある。当時まだ評価されていなかった印象派の画家たちが出入りしていた。彼らは自分の描いた絵を持ち込んでは必要な絵具や画材の代金がわりに引き取ってもらうことが多かった。タンギー爺さんにとってはかろうじて商売が成り立つ程度のつましい生活だったが、彼らの信念と情熱を信じて支援し続けたのだ。

 印象派の巨匠クロード・モネが回想して語ったことによると、まったく売れない画家だった時期に、彼らはタンギー爺さんの店先に週一回自分の絵を飾ることを始めたという。「月曜日はシスレー、火曜日はルノワール、水曜日はピサロ、木曜日はモネ、金曜日はバジル、土曜日はヨンキント」ということで、それぞれがその日店頭に自分の絵を持っていって飾り、タンギー爺さんと一緒に店番をしたのである。


Vincent van Gogh : Portrait de Père Tanguy,
Collection particulière
タンギー爺さんの容姿を永遠に留めているのは、ゴッホの手になる肖像画である。ゴッホ(Vincent van Gogh, 1853-1890)が本格的に絵を勉強するためにパリにやってきたのは1886年の3月頃で、32歳から34歳までの約2年間、印象派の画家たちの影響を受けながら、明るい色彩で風景画、人物画、静物画などを精力的に描き上げた。しかしゴッホは年代的に印象派の画家たちよりも10~20歳若く、これまでほとんど無名であったために、交友を深めることができたのは、後期印象派のシニャック、スーラ、あるいはロートレック、ゴーギャンなどだった。 右掲(→)の肖像画には、タンギー爺さんの好人物ぶりが生き生きと描かれ、稚拙なほどのナイーヴな表現はむしろ見る人を微笑ませてくれる。