パリの街角散歩です。カタツムリのようにゆっくりと迂回しながら、そして時間と空間をさまよいながら歩き回ります。


2015年12月25日金曜日

散歩R(13-1) サン=ラザール通り Rue Saint-Lazare, 9e(9区サン=ジョルジュ地区)

(c) Google Map Streetview,
perspective de la rue Saint-Lazare

トゥール・デ・ダム通りの途中からラ・ロシュフコー通りまで戻って、坂を下るとサン=ラザール通りに出る。右に曲がると整然とした通りが見通せる。

サン=ラザール(Saint-Lazare)通りは1000年以上前から存在する古い道路である。普通に考えれば、サン=ラザールとはイエスが奇跡を起こしたうちの一つとして聖書に「ラザロの蘇生」として知られている人物が思い浮かぶのだが、ここではまったく別の聖人ラザロのことを指すことが初めてわかった。


Les paraboles : Le mauvais riche et le pauvre Lazare
Sujet tiré du Nouveau Testament
Documents iconographiques, @BnF Gallica

ルカ福音書に「金持ちとラザロ」のたとえ話として記されている。金持ちは良い身なりをして毎日宴会を開いていたが、貧者のラザロは外で物乞いをしていた。犬はその男の腫物を舐めた。やがてどちらにも死が訪れ、金持ちは地獄に落ち、貧乏人は天国に迎えられた、という教訓話である。(Les paraboles : Le mauvais riche et le pauvre Lazare)⇒
ラザロは中世においては一般に、癩病患者として考えられ、あたかも実在の人物だったかのように聖人の列に加えられ、癩病患者と乞食の守護聖人となった。
~ジェイムズ・ホール『西洋美術解読事典』(河出書房新社)から引用

この道路の東に向かってだいぶ先に、紀元1110年頃から修道会の運営する「聖ラザロの家」(Maison de Saint Lazare)と称する癩病患者のための施設があったことが名前の由来である。そこは約400年間続き、その後司祭館となったり、監獄となったり、女性の犯罪者の更生施設となったりした。現在では、反対の方角の西の先にあるサン=ラザール駅が名前としての知名度が一番高い。

面白い名前の店としては、「イヴの気質」(La naturelle d'Eve)という意味だろうが、女性の興味をひきそうな分野の書物・雑誌を集めている本屋さんがある。上の画像の左側、黄緑色の外観。
もっと先の郵便局の角には「偶然」(L'Hasard)という小さなレストラン・バーがある。マリヴォーの戯曲『愛と偶然の戯れ』(Le jeu de l'amour et du hasard)を連想する。


(c) Google Map Streetview,
54 rue Saint-Lazare, 9e

☆サン=ラザール通り54番地 54 rue Saint-Lazare, 9e

ラ・ロシュフコー通りとの角にある家である。馬車門の上部装飾の花模様が美しい。

左側のカフェ・レストランの名前が「ル・ラロシュ」(Le Laroche)になっている。昔、坂の上にあった画家たちの溜まり場「ル・ラロシュ」と同じ名前である。[ サン=ジョルジュ地区(10-9) 参照 ]

(c) Google Map Streetview,
56 rue Saint-Lazare, 9e







☆サン=ラザール通り56番地 56 rue Saint-Lazare, 9e

通りから奥まった場所に住む居住者のための通路がある。当然袋小路で、トゥール・デ・ダム通りの「マルス嬢の館」や「ヴェルネの館」などの屋敷がそれぞれ所有する中庭にある裏門とつながっている。









☆サン=ラザール通り58番地 58 rue Saint-Lazare, 9e
 PA00088981 © Monuments historiques, 1992
« Hôtel de style toscan » par MOSSOT
— Travail personnel. Sous licence CC BY 3.0
via Wikimedia Commons

1829年に建てられた歴史的建造物である。パリには珍しい多色装飾(ポリクロミー Polychromie)が特徴で、トスカーナ風と評されている。

ここには歴史画家のポール・ドラロシュ(Paul Delaroche, 1797-1856)が1839年まで約10年間住んでおり、その後トゥール・デ・ダム通りの7番地に引っ越した。 [ サン=ジョルジュ地区(12-4)参照 ]















☆サン=ラザール通り60番地 60 rue Saint-Lazare, 9e

19世紀末から20世紀初頭にかけてパリの街角には規模の大きい白亜の石造建築が数多く建てられた。この建物もその一つで、1899年に建築士のロブロ(P. Lobrot)の設計による都市建築で店舗、事務所、住居の複合体としての建物である。正門の上部の装飾も堂々としている。いわゆるユルバニスム(Urbanisme)によるパリの都市景観がこの時期に一つの隆盛期を迎えたと言えるのかもしれない。

散歩者はここから折り返してサン=ラザール通りを東に向かう。


(c) Google Map Streetview,
60 rue Saint-Lazare, 9e









































かたつむりの道すじ:⑪ラ・ロシュフコー通り~⑫ラ・トゥール・デ・ダム通り~
⑬サン=ラザール通り~⑭テブー通り~⑮ドーマル通り (c) Google Map