パリの街角散歩です。カタツムリのようにゆっくりと迂回しながら、そして時間と空間をさまよいながら歩き回ります。


2016年1月27日水曜日

散歩R(18-3) ラ・ブリュイエール劇場と画家ルフェーヴルのアトリエThéâtre de La Bruyère et l'emplacement de l'atelier de Lefebvre(9区サン=ジョルジュ地区)

(c) Google Map Streetview
 5 et 7, rue La Bruyère, 9e
 ☆ラ・ブリュイエール通り5番地 (5, rue La Bruyère, 9e)  
《ラ・ブリュイエール劇場》(Le Théâtre La Bruyère)
 5番地はラ・ブリュイエール劇場となっている。1943年にしばらく使われずに放置されていたレ・ザナール大学(*)の講演会場を若手の俳優たちが借りて小劇場として発足した。当時はまだナチ独軍の占領下であったが、モリエールの喜劇や現代作家の戯曲を上演した。
 戦後1948年以降、ロベール・デリ(Robert Dhéry, 1921-2004) 率いる劇団「レ・ブランキニョル」(Les Branquignols)の公演が大成功を博し、劇場としての基盤が定まった。現在に至るまで、新作喜劇を意欲的に取り上げている。

(*)レ・ザナール大学 (L'Université des Annales) は1908年に同名の雑誌社が創設した婦女子向けの講座方式の教育機関で、この近くのサン=ジョルジュ通りにあった。第一次大戦後にここに移転してきた。恐らく1940年のナチ独軍のパリ占拠以降は活動を停止したものと思われる。
◇パリ蝸牛散歩内の関連記事:
9区サン=ジョルジュ地区(16-4)サン=ジョルジュ劇場と旧レザナール女子大学跡
http://promescargot.blogspot.jp/2016/01/16-4.html


《画家ルフェーヴルのアトリエ》 (Atelier de Jules-Joseph Lefebvre)
Atelier de M. J. Lefebvre (Anonyme)
Paris, école nationale supérieure des Beaux-Arts (ENSBA)
Photo (C) Beaux-Arts de Paris, Dist. RMN-Grand Palais
 この5番地の建物の2階には百年以上前にアカデミー派の画家ジュール=ジョゼフ・ルフェーヴル(Jules-Joseph Lefebvre, 1834-1912)のアトリエがあった。
アミアン出身でパリの美術学校に学び、ローマ大賞を得てローマに遊学し、帰国後はアカデミー派のジュリアン画塾の教授となった。また毎年サロン(官展)に出展し、1891年には57歳で芸術アカデミーの会員に選出された。

(←)左掲は当時の写真で「ルフェーヴル氏のアトリエ」という説明がある。額入りで見えるのは『オンディーヌ』(Ondine, 1882)という作品である。このポーズの源流は、古典派の巨匠アングル(Jean-Auguste-Dominique Ingres, 1780-1867)の『泉』(La Source)に見られるあどけない乙女の姿である。

Jules-Joseph Lefebvre : Lady Godiva
Musée de Picardie, Amiens
Wikimédia commons
 ルフェーヴルは1870年に『真実』(La Vérité)という同じ構図の裸婦画を描いて以来、一般大衆の人気を獲得し、女性の裸身を正面からあからさまに描くことがこの画家の特徴とされ、この他にも多数の作品がある。19世紀後半のアカデミー派は、大衆の嗜好に迎合したこうした煽情的な裸体画と、美人の肖像画と、ブルジョワの邸宅を飾る凡庸な装飾絵画の袋小路に入り込んで行き、芸術性に乏しい(心に訴えるものを持たない)絵画になって行ったように思う。

(→)右掲は1890年に描いた『レディ・ゴディヴァ』(Lady Godiva)という歴史画で、領主の妻ゴディヴァ夫人(**)が夫の圧政を諫めるために長い髪以外に身にまとわずに裸でロバに乗って町中を練り歩いたという英国の伝説に基づいている。この絵が当時の郵便局のカレンダーに取り入れられて、年末大晦日に配達員が一軒ずつ訪ね歩いて売りさばかれたという。(これはある意味では配達員たちへの恒例となっていた年越しの謝礼の代償として使われたかも知れない)いずれにしても、大胆なヌードを文化的・芸術的という名目で人目にさらす巧妙な手段として利用された卑近な例とも指摘されている。(LAI)
 (**)英国では「ゴダイヴァ」と発音する。ベルギーの有名チョコレート店は「ゴディバ」と表記。

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