パリの街角散歩です。カタツムリのようにゆっくりと迂回しながら、そして時間と空間をさまよいながら歩き回ります。


2015年11月15日日曜日

散歩R(10-5) ノートルダム・ド・ロレット通り Rue Notre-Dame de Lorette, 9e(9区サン=ジョルジュ地区)


 ☆ノートルダム・ド・ロレット通り52番地 (52, rue Notre-Dame de Lorette, 9e)
PA00088967  © Monuments historiques, 1992



« Immeuble 52, rue Notre-Dame de Lorette, 9e» par MOSSOT
— Travail personnel. Sous licence CC BY 3.0
via Wikimedia Commons

歴史的建造物に登録されているというが、この建物の見どころは普通に歩いて行けば見過ごしてしまう。上を見上げてやっと、3階正面にある3連の半円窓とその間を支えるイオニア式の円柱装飾が見事なのがわかる。もともと古代ギリシア建築に見られる柱頭部の渦巻飾りがイオニア式の特徴である。窓の上壁にはギリシア悲劇にありそうな男女の横顔のメダル彫刻が見える。バルコニーの下には3連の浮彫があるが、すでに摩耗して細部がわからなくなっている。教会や神殿にあるような装飾がこうした一般の住居に模造されているのは珍しい。それが登録の理由かもしれない。





☆ノートルダム・ド・ロレット通り54番地 (54, rue Notre-Dame de Lorette, 9e)


(c)Photo Emoulu bc06f, 2013

(c) Google Map Streetview
 54, rue NotreDame de Lorette, 9e
そのすぐ隣の建物の装飾も興味深い。しかしこちらは歴史的建造物にはなっていない。ルネサンス期の頭飾りをつけた男女の貴人の頭部が一対になって正面窓の両側を飾っている。その下の花瓶をあしらった唐草模様の細かな装飾も美しい。(→)

実はこの男女の頭像は中世の悲恋の主人公たち「アベラールとエロイーズ」(Abélard et Héloïse)を模したもので、19世紀前半には建物の装飾として流行したという。

フランス大革命期の混乱時に過去の貴重な文化遺産までも破壊の危機にさらされたために、アレクサンドル・ルノワール(Alexandre Lenoir, 1761-1839)が中心となって「フランス歴史遺産博物館」(Musée des monuments français)が設立された。それに合わせて過去の偉人たちの墓も整備され、アベラールとエロイーズの墓も修復以上に新調された。この墓は、ナポレオン後の王政復古の1817年にペール・ラシェーズ墓地に改葬されたということもあり、当時の新築アパルトマンに盛んに採り入れられたという。(PRR)