パリの街角散歩です。カタツムリのようにゆっくりと迂回しながら、そして時間と空間をさまよいながら歩き回ります。


2016年8月18日木曜日

散歩Q(3-2) オリエント・カフェ跡 Emplacement du Café d'Orient(クリシー広場~ユーロプ界隈)

☆クリシー通り81番地 (81, rue de Clichy, 9e)

(c) Google Map Streetview
 81, rue de Clichy, 9e
この場所に現在は新しいビルが建てられている。19世紀末にはここに「オリエント」という名前のごく普通のカフェ(カフェ・ドリアンCafé d'Orient) があったというが、ネット上でもそのカフェの存在を語る情報は今のところ確認できない。唯一の典拠は、パリの街角の歴史をデータベースで紹介するサイト《Paris Révolutionnaire》(PRR)だけである。

ここには、1870年代後半からステファヌ・マラルメ(Stéphane Mallarmé,1842-1898)を中心に当時の若い詩人たちが集う場所となった。マラルメは早くから詩作を試み、これまでの主観的で感情表現が濃いロマン主義の詩に対し、客観的で感動を抑制した詩的表現を目ざした高踏派に共感し、24歳の時に『現代高踏詩集』(Le Parnasse contemporain, 1866) に自作が所収された。英語教師でもあった彼は地方勤務のあと、1871年からパリのコンドルセ高校(Lycée Condorcet)に転勤となり、パリで活発な文筆活動とともに多くの文人たちとの交流を深めた。当時の彼の住まいはここから数分のモスクゥ通りで、サン=ラザール駅近くの学校までは徒歩通勤だった。


Brasserie allemande
Émile Goudeau & Pierre Vidal
"Paris qui consomme" 1896
Wikimédia Commons

彼の詩は言葉の精緻を極めたもので、長い時間をかけて推敲に推敲を重ねた凝縮された表現だと高く評価された。しかし、34歳の1876年に作った『半獣神の午後』(L'Après-midi d'un faune)が「第3次現代高踏詩集」に拒絶されたことにより、マラルメは、これまでの高踏派の潮流に対抗して新たな詩作りを目ざそうとする若い詩人たちとの交流を深めることとなった。この「オリエント」もそうした集いの場の一つで、詩人で雑誌編集者のギュスターヴ・カーン(Gustave Kahn, 1859-1936) やパリに出てきたばかりの青年作家のモーリス・バレス(Maurice Barrès, 1862-1923)などがいて、その後このグループは象徴派(Symboliste)と呼ばれるようになった。

(←)左掲は『消費するパリ』という画文集にある「ドイツ風ビヤホール」(ブラスリー・アルマンド)のイラストで、直接の関係はないが、マラルメたちが集まって話し込んだというカフェの雰囲気を連想させる。

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9区サン=ジョルジュ地区(20-4)作家モーリス・バレスの青年期の住居
Demeure de Maurice Barrès
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Albert Dubois-Pillet : Village près de Bonnières
Wikimédia Commons
また、このカフェは数年後の1884年に創立された《独立美術家協会》(Société des artistes indépendants)いわゆる「アンデパンダン」展の主体となった点描派の画家たちの主要拠点となった。創立メンバーには、スーラ、シニャック、ピサロ、アングランに加えて、アルベール・デュボワ=ピレ(Albert Dubois-Pillet, 1846-1890)がおり、彼は軍人で潔癖性でも知られ、点描画の技法を誰よりも忠実に反映させた絵を描いた。(→)右掲は、セーヌ下流『ボニエール付近の村』の黄昏を描いた名品である。

この画家たちは、やがて新印象主義(Néo-Impressionnisme)と呼ばれるようになったが、その理論的背景には雑誌『独立評論』(La Revue indépentdante)の存在が大きかった。この雑誌の編集者としても上記のギュスターヴ・カーンが関わっていた。


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クリシー広場~ユーロプ界隈(2-3)点描派シニャックのアトリエ跡
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